中央アルプスは長野県南部に位置し、東に天竜川が流れる伊那谷、西に木曽川が流れる木曽谷に挟まれた東西約 20km、南北約 100km に走る木曽山脈の通称名です。
特別保護区に指定された標高2600mの千畳敷カールは宝剣岳を中心に2万年前の氷河時代が作りだした地球の造形で高山植物や屈指の紅葉美が眺められ、一部のアルピニストしか味わえなかった大自然をロープウェイを使って気軽に楽しむことができます。
木曽谷に位置する寝覚の床及び木曽田立の滝周辺の地域一帯は山岳部と共通した花崗岩地形の特性を有する地域で、木曽川の水流によって侵食されてできた渓谷地形や多数の滝が分布し、傑出性の高い自然の風景地が広がっています。
知ればもっとおもしろい!
中央アルプスってどんなところ?
中央アルプスは、主に花崗岩(かこうがん)からできています。特に千畳敷カール一帯は地下深所でマグマからできた深成岩の木曽駒花崗閃緑(せんりょく)岩、通称木曽駒花崗岩でできており、その成り立ちは約7000万年前の中生代白亜紀のことと考えられています。その後、この地帯全体の上昇が起こり、地下数kmにできた花崗岩が地表に露出。約80〜70万年前に南アルプスに押し出される形で急速に隆起、上昇し、約3000m級の高山となりました。約6万年前と2万年前ごろには日本でも氷河が大きく発達していました。氷河の働きによってできた地形を「氷河地形」といい、中央アルプスはその代表格であるカールやモレーン、氷食谷などを見られる貴重なスポットです。
01 中央アルプス国定公園って?
2020年3月、中央アルプス国定公園が誕生しました。県内では4番目の指定で、13市町村にわたる県立公園の3万5,116haがそのまま移行。さらに千畳敷カール周辺には「特別保護地区」が新設されました。希少な氷河地形や動植物などを次代に受け継ぐため、より一層の自然保護強化を一人ひとりが意識することが大切です。そのためにも、知っているようで意外と知らない身近な山・中央アルプスについて少し学んでみましょう。
↑宝剣岳・千畳敷カール〜しらび平(イメージ)
【中央アルプスの地質】
中央アルプスは主に花崗岩(かこうがん)からできており、特に千畳敷カール一帯は地下深所でマグマからできた深成岩の木曽駒花崗閃緑岩(かこうせんりょくがん)、通称木曽駒花崗岩です。また、カール(圏谷)などのさまざまな氷河地形を目にすることができます。
↑木曽駒花崗岩イメージ。乳牛の模様のような暗色片(マグマが取り込んだ岩片)が多く入っているのが特徴。
02 中央アルプスはどうやってできたの?
【中央アルプスの成り立ち】
中央アルプスの基盤となっている木曽駒花崗岩ができたのは、約7,000万年前、恐竜が生息していた中生代白亜紀のことと考えられています。その後、この地帯全体の上昇が起こり、地下数kmにできた花崗岩を覆っていた地層や岩石が削り取られながら地表に露出。そして80〜70万年前に南アルプスに押し出される形で急速に隆起、上昇します。その結果3,000m級の高山となった中央アルプスは最終氷期(約11.5万年前〜1.17万年前)、特に約6万年前と約2万年前ごろに氷河が大きく発達し、氷河地形を造り出しました。
03 中央アルプスに氷河があった!?
【氷河と氷河地形・周氷河地形】
氷河とは、降り積もった雪が圧縮され成長してできた氷の塊「氷体」が、重力や自重によってゆっくりと流動しているもののこと。ヒマラヤやキリマンジャロなど山岳地に形成される山岳氷河と、南極大陸やグリーンランドのような広大な面積の大陸氷河があります。もっとも新しい氷期=最終氷期(約11.5万年前〜1.17万年前)のうち、約6万年前と2万年前には日本にも氷河が発達していました。氷河の働きによってできた地形を「氷河地形」といいます。また、非常に強い寒さにより地中の水分が凍結・融解を繰り返すことで形成された寒冷地の地表地形を「周氷河地形」といいます。中央アルプスはこの2つの地形を見られる貴重なスポットです。
【カール(圏谷)】
氷河地形の代表格「カール」は氷河の侵食作用によりできた半椀状の地形です。山頂付近の氷河はゆっくりと流動しながら山肌を削り取り半円状の谷を形成。氷河があるうちはその形はわかりませんが、氷河がなくなるとその形が現れます。急峻なカール壁と平坦なカール底が特徴です。中央アルプスにはいくつものカールがあり、これらは約2万年前に発達した氷河により造られた地形といわれています。
中央アルプスの主なカール(圏谷)
千畳敷カール、極楽平カール、濃ヶ池カール、摺鉢窪カールなど
一般的に呼んでいる千畳敷カールには、北側の千畳敷カールと、南側の極楽平カールが並んでいます。
上図のアレートとは氷河の侵食でできた鋭いやせ尾根のこと
【氷食谷(U字谷)】
氷食谷(ひょうしょくこく)はカールと同じように氷河の侵食によって山腹を削ってできた幅の広い谷のことで、U字谷ともいいます。中央アルプスには千畳敷カールと極楽平カールの下流にある中御所氷食谷をはじめ、三ノ沢カール群下流の伊奈川氷食谷、駒飼ノ池(こまかいのいけ)カールを源流部とする黒川氷食谷などがあります。これらは約6万年前に造られたと考えられています。
【モレーン(堆石・氷堆石)】
モレーンとは氷河が山肌などを削りながら運んだ岩屑が堆積した堤防状の地形のことです。千畳敷カール内にはいくつかのモレーンが確認されており、駒ヶ岳ロープウェイの千畳敷駅はモレーンを削った上に造られています。モレーンの前にはくぼ地や池ができることがあり、濃ヶ池はそうしてできた氷河湖ですが、現在は水位が下がり消滅の危機にひんしています。
中央アルプスの主なモレーン
千畳敷駅〜剣ヶ池周辺、中御所谷モレーン群、池ノ平カール内、濃ヶ池カール内など
しらび平周辺の堆積物は約6万年前の氷河により作られたモレーンと考えられています
周氷河地形
【階状土】
土中の水分の凍結・融解の繰り返しにより、土壌や岩石が斜面をゆるやかに流動して造られた小さな階段状の地形。構造土の一種で多くの場所で観察されます。
【グナマ】
花崗岩の表面にあいた風化穴。岩のくぼみに溜まった水が凍結と融解を繰り返すことで、穴が拡大したものです。
【ペイブメント】
岩石が敷石のように堆積し上面が平坦にそろった地形のこと。雪氷の圧迫でできると考えられていますが成因の詳細は不明です。
【トア(岩塔)】
塔状の岩。氷期の寒冷時に強力な凍結破砕作用により岩盤に大きな割れ目ができ、その後、侵食から取り残されたもの。
取材協力
下平眞樹さん(駒ヶ根市立博物館専門研究員)
参考文献・資料
・下平眞樹.中央アルプス千畳敷カールの地形と地学:氷河地形・周氷河地形の観察.駒ヶ根市立博物館館報第4集(P16-39).2020年3月
・下平眞樹.中央アルプス北部における氷河地形・周氷河地形の分布.駒ヶ根市立博物館館報第2集(P5-22).2018年3月
写真①〜④提供:下平眞樹さん
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